広葉の家

「 尋常無事 」

 

 


建築における「健全さ」とは

場所は広島県福山市、大通りの喧騒から少し離れた場所に医院が併設された住宅があった。5人の子育てもやっと終わりかけた頃、御主人が突然の病で他界された。「落ち着いたら取り掛かろうね。」と二人で話をしていた住宅のリフォームが、奥様の念願であり、そういった意向を受けて設計が始まった。「健康」な住まいとは何か、建築における「健全さ」とは何か、という問いに答えることが、今回わたしに与えられた役割に思えた。

太陽蓄熱を利用した室内温度の安定化、アルミ押出材と木製の複合サッシュによる高断熱化、セントラル浄水器を使用して家全体の水の塩素や汚れを除去、そういった基本的性能を上げていった。しかし、性能は次々に新しい技術が登場して古くなっていく。年月が経っても色褪せない建築全体に通底する考え方はないものか。

民藝では「無事」とか「健康」という表現をする。一緒に暮らす食器や、衣類、家具などを選ぶ際に、「健全さ」を第一の物差しとする考え方である。日本では良くも悪くも、茶道の影響があり、意識し過ぎると、ふと茶道具の持つ雅趣が頭を上げ、その結果、凝った遊びに走りがちとなる。その点での良識を目指しているのが民藝で、遊びではなく、「健全さ」「健康」こそを心掛けようと勧めるのである。

民藝は、
・材料が天然材であること。
・手仕事によること。
・伝統に沿った技術で作られること。
この三点がまず求められる。これを建築にも取り入れることを考えた。
全体的に痩せた表現や神経質なディテールは避けて、家全体がおおらかでゆったりとした空気感で満たされるように配慮した。

この建物では庭の比重が極めて高い。庭は、東西に長く伸びており、建物の平面形状に呼応するように配置されている。そのため、玄関から応接間、リビング、ダイニングキッチンという一連の動線が、庭との視線を絶やさないように設計されている。ヤマボウシ、ハウチワカエデ、ハクウンボクなど、落葉広葉樹が中心となって植えられており、夏には木陰を作り、冬には日差しを届け、開口部から自然の恵みを最大限に享受できる。

また、「台所を暮らしの中心としたい」という施主の要望から、家の中央にキッチンを配置している。使い勝手にもこだわり、何度もシュミレーションを行い、丁寧に時間を掛けて詰めていった。ペニンシュラ型の前面がオープンとなっているキッチンで、友人を招いて食事をしたり、孫と一緒に料理を作ったり、食を通じた会話が生まれる。「家庭料理は民藝である」というのは料理研究家 土井善晴の言葉だが、料理は健康に欠かせないもので、食べることを大切に、そこから広がる暮らしを慈しむ。

建築は、残念ながら音楽のように一瞬で人の心を高揚させたり感動させたりはできない。ただ微力ながら、少しづつ影響力を発揮しており、その力は相対的に見ても大きなものである。建築とは人間の生を支える存在でなければならない。

 

 


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Project Data

Landscape gardener: Takuo Murata
Structural engineer: Kurashiki Structural Planning Ltd.
General constructors: Michishita Koumuten
Photographer : Kei Sugino